ゴーストハント(悪霊シリーズ)考察ブログ

ゴーストハント(悪霊シリーズ)の好きな所とか邪推をひたすら垂れ流すファンブログです

ゴーストハント「扉を開けて」旧版、コミック版、リライト版、文庫版比較

令和になってもゴーストハントの新刊が読める幸せを噛みしめながら読了した文庫版。

文庫版では7巻にあたる「扉を開けて」ですが、過去4回出版されています。

1992年9月5日 悪霊だってヘイキ!上巻

1992年10月5日 悪霊だってヘイキ!下巻

講談社X文庫レーベルでの「悪霊シリーズ時代」ですね。

80年代の挿絵に、平成キッズだった自分としては度肝を抜かれていました笑

 

そしてそこから16年後(!)コミックス版「ゴーストハント」にて世に出ます。

いなだ詩穂さんによるコミカライズ版で、シリーズタイトルは「忘れられた子どもたち」でした。

2008年4月11日 ゴーストハント10巻 

2009年8月6日 ゴーストハント11巻 

2010年9月30日 ゴーストハント12巻

わたしはゴーストハントとの出会いがコミカライズ版からだったこともあり、いなだ詩穂さんの描くゴーストハントが大好きすぎるのですが、これはまた別途語るとして、、、

 

最終回のこの話は、ドラマCD版でも割愛されていたり(何故かこれだけ飛ばして、海からくるもの→悪夢の棲む家の流れになっているんですよね)

コミックスの文庫版も出ているのですが、今回は割愛し、コミックス12巻発売から1年後、「悪霊シリーズ」のリライト版として、角川幽BOOKSレーベルで発行されます。

2011年11月15日 ゴーストハント7 扉を開けて

そして令和に入り文庫版刊行となりました。

2021年6月25日 ゴーストハント7 扉を開けて(文庫版)

初版発行から約30年かけて出版されているんですね。そりゃあ自分の人生の大半をゴーストハントが占めている訳ですな・・・!

00年代のコミックス版は基本的には「悪霊シリーズ」を忠実にコミカライズしていたのですが10年代のリライト版は、原作者の小野不由美さんによる加筆・修正が入っています。シリーズ全編、主要人物周りの部分というよりは、事件のディテールを補足するものが主だったのですが(大筋は変えられないもんね)、この7巻「扉を開けて」だけは大きな違いがありました!!!

 

※ここからはネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

最大の違いは、ナルの正体を暴くタイミングでした。

これまでは、前半が小学校の事件パート(「忘れられた子どもたち」)で、解決後の後半にナルの正体が明らかになるパートと明確に分かれていたものが、リライト版では小学校の事件パート真っ只中で、少しずつ謎が解けてゆく構成になっています。

これは結構大きな手術だったと思います。

メンバーが一人ずつ消えていき、存在を忘れてしまうのと、ナルの正体を推理していくのが平行しています。基本的な台詞は悪霊シリーズの頃のそのままで、ぼーさんと麻衣の会話で、麻衣がぼーさんに導かれる形で自ら答えを見つけ出してゆくスタイルでした。そして事件解決後、バンガローで麻衣が自身が辿り着いた結論を「そうなんでしょ?」とメンバーに披露し、そのままナル(とリンさん)にもぶつける形になっています。

個人の好みでいうと、私は旧版の推理小説の王道のような、関係者全員を集めてその前で推理を披露するスタイルの方が正直好きでした。

ぼーさんの推理、麻衣や綾子の疑問出し、ナルとの攻防など、ミステリー小説出身の小野不由美先生らしい、見事な形式で、すごく興奮したのを覚えています。

 

今回のこの改訂の真意は小野主上にしかわかりませんが、勝手に考察してみました。

 

①主人公の麻衣が自ら真相に辿り着く姿に意味がある

「悪霊シリーズ」はX文庫という少女小説レーベルだったこともあり、主人公の一人称で書かねばならない、主人公は普通の子でなければならない等制約がいろいろあったと小野さんもあとがきで書いていました。

そのため、麻衣は能力者たちに囲まれた「ミソっかすのあたし」としてシリーズを過ごしてきました。後半になるにつれ、ジーンの指導もあり、能力を発揮しつつありましたが、最後の事件でさえも、麻衣が一人浄霊して解決したことをメンバーたちは(冗談交じりで)認めようとしていなかったことからも、ずっと「霊能者としては半人前」の地位にいることが分かります。

続編の「悪夢の棲む家」の冒頭でも「調査員として半人前」と評されていますしね。

 

一方で、邪推ですが小野主上が描く女性主人公やヒロインは皆「自分の頭で考え、自分の意思で突き進んでゆく」姿を描いています。

十二国記の陽子が代表例ですが、鈴と祥慶、珠晶もそうです。「屍鬼」の沙子や「黒祠の島」の葛木志保も逆境で見せる賢さ・意志の強さを感じます。

今回のリライトにあたり、麻衣にもそうした要素を入れたいと思ったのではないでしょうか。

もちろんシリーズ全編で麻衣はしっかり自分の考えを持ち、事件に立ち向かっていっていましたが、旧版の「悪霊シリーズ」では、この最終回の後半パートにおいては、麻衣はナルの正体もぼーさんの推理で聞かされ、ジーンの存在もナルに指摘されて思い至るなど、全て受け身の主人公になっています。

第一話の旧校舎階段でのゴーストハントを手伝うきっかけからしても「巻き込まれ型主人公」だったのは明白ですが、今回のリライトで、ナルの正体に自分で気付いた主人公となったことが、小野主上が描きたかった女の子だったのかもしれません。

 

②ナルの本名を告げるのがジーンであることに意味がある

「ナル、って何の愛称?」

「・・・Nollなら、オリヴァーの略だよ」

ナルの正体に辿り着くトドメのヒント。旧版やコミック版ではジョンの台詞だったのが、今回のリライトでは麻衣が夢の中のナルに直接問い、彼が答える構図になっています。

この時点で麻衣は夢の中のナルの正体には気付いていないので、このやりとりにより、ジーンの切なさというか、複雑な思いが読み取れるようになっています。

台詞冒頭の「・・・・」という間や、「困ったような白い顏」「なんだか少し悲しそうな声」という描写からも、旧版やコミック版では描かれなかった、麻衣の前で正体を明かさず、ナルのフリをしているジーンの葛藤が垣間見えます。

 

この流れになると、ジーンの死体発見直前に森の中で麻衣の前に現れた彼が「麻衣に言っておきたいこと」「・・・やっぱり、やめておく」と言ったことは自分がナルではなく、ユージンですよ、という告白であるという要素が強まりますね。

※ユージンに関しては色々疑問があるので、これはまた別途考察します。

 

長々語ってしまいましたが、ゴーストハントはどの版も本当に面白いですし、

今回の文庫版が書店に平積みで並んでいるのを見るのは、ファンとしてとっても至福でした。