ゴーストハント(悪霊シリーズ)考察ブログ

ゴーストハント(悪霊シリーズ)の好きな所とか邪推をひたすら垂れ流すファンブログです

ゴーストハント「夢の中のナル」疑問・考察あれこれ(※ネタバレ注意)

ゴーストハント(悪霊シリーズ)は、小野不由美先生の作品の中でも、ホラー・恋愛・ミステリーの3要素が絶妙にからんだ最高傑作だと思うのですが、

(小野主上の作品で恋愛要素があるのは非常に珍しいですよね。悪霊シリーズは初版が講談社X文庫という少女小説レーベルだったため、MUST要件としてお題に入っていたのだと推察しますが、今となってはそれが功を奏し、貴重なテイストになってます笑)

その要素を担う重要人物が、「夢の中のナル」=ユージン・ディヴィスですね。

生前のジーンを描いた作品は未発表作品「中庭同盟」等でいくつかあり、その人物像も何となく伺えるのですが、シリーズ本編でのジーンの思惑については結構謎が多いので、今回はそれをつらつらあげつらって参ります!

 

疑問① なぜナルのフリをしていた?

一作目「旧校舎怪談」の初登場時、ジーンはナルと同じ服装で麻衣の夢に出てきます。

この時点で、なりすます気満々ですね。

ナルが全身黒ずくめになったのはジーンの死後なので、ジーンはわざわざナルと同じ格好をして現れたことになります(※)

※霊の服装については「悪夢の棲む家」でナルが広田さんと「化学繊維に魂はあるのか?」と議論していたように、魂が纏っているのではなく、目撃者の脳の情報処理の問題という説もあるので、単純に麻衣がナルだと思っているので、ジーンはナルと同じ服装をしている(ように麻衣が見えている)という説もあるのですが、ややこくなってくるので、これ以上は触れません。

服装は百歩譲っても、自分がナルでないことを麻衣に説明してもいいはずです。むしろずっとナルとホットラインで繋がろうと模索してて、麻衣を中堅地点としてつなげることが出来たのであれば、ナルに繋がるこのチャンスを活かさない手はないはずなのに、彼は何も語りません。

もっと早く話してくれれば、ナルも全国を探し回る必要はなかっただろうに・・・・。

ただ用意周到な小野主上ですから、この辺もしっかりと設定を考えていらっしゃる可能性は高いです。

邪推ですが、少なくとも1作目の旧校舎怪談の時点では、ジーンはあまり覚醒していなかった可能性があります。

根拠として

①台詞がほとんどない

②霊視をしていない

シリーズ後半では、ジーンは麻衣と会話を交わし、霊視ビジョンを見せたり、警告を発したりしていますが、1作目では優しく微笑むのみで、実働はほぼゼロ。

なので、この時点ではあまり高度なコミュニケーションが出来なかったのかもしれませんね。

後に「悪夢の棲む家」でぼんやりと漂っていて、覚醒すると何故かいつも調査中という趣旨の説明を麻衣にしていますが、1作目、2作目とだんだん回を追うごとに、台詞も増え、霊視を行うなど能力が覚醒していっている感があります。

さらに、夢の中のジーンはどことなく自我が薄い印象があります。

森まどかさんが最終回「扉をあけて」で語った生前のジーンの印象「人懐っこい」「依頼者にすぐのめりこむ」「活発」や未発表の中庭同盟内の短編「Eugene」の一人称からも、彼が麻衣のようなコミュニケーション能力の高い人間だということが分かります。

それなのに、初期の麻衣の夢の中での彼は端的に会話し、物静かな印象です。

ナルに似せている説もありますが、それよりも、やはり幽霊として、どこか儚げな存在になっているような気がします。

「扉を開けて」で浄霊のやり方を麻衣にレクチャーする際、「死んだ人の自我はとても薄い」と説明してましたしね。

 

まあだとしても、なぜ最後まで麻衣に自分がナルではないことを言い出せなかったのか?は謎ですね。。。

 

疑問② 本当に幽霊か?

未発表作品(中庭同盟)「一番見えない横顔」でジョン・ぼーさんから疑問として挙がっていましたが、ジーンだけ特殊な幽霊のように思えますね。

主な理由として

①真砂子が感知できない

②えびす神の手下になっていない(引っ張られていない)

6作目「海からくるもの」では、吉見家周辺で死んだ霊は全員えびす神の使役霊にされていました。霊能力を持った行者でさえ手下にされていたし、成仏しようとしていた奈央さんを無理やり引っ張る程の荒業を使うえびす神をどうやってかわしてしたのか疑問です。

③ナルと共に年を取っている

ジーンが死亡してからナルが来日するまでのタイムラグが不明ですが、旧校舎階段の時点でナルが来日して三カ月後という時系列を考えると(※)、ジーンが死亡してからまだ日が浅いのだと推察されます。

「悪夢の棲む家」で広田さんに対し「捜索届は提出していた」と発言していたことから、ジーンの死を感知してから多少は警察からの回答を待つ時間があったかもしれませんが、「早く見つけて解剖したい!」という気持ちが強かったはずなので(笑)すぐに自ら探しに行く!と言い出したと予測します。

※最終回で森まどかさんがナルが日本に来たのは麻衣がバイトに入った三カ月くらい前と話していた

そのためシリーズ1作目~4作目までは、ジーンとナルは同い年だったと仮定します。

が、5作目の「鮮血の迷宮」時点でジーン死亡から既に1年が経過し、続編の「悪夢の棲む家」では最短でも、1年半~2年は経っていると思われます。

十七歳といえば成長期真っ只中で、一年で身長も伸びるし、顔の造作も随分印象が変わります。一方でシリーズ全編を通してナルとジーンは見分けがつかないくらい似ている、という体で、悪夢の棲む家では鏡に映ったジーンを麻衣以外はナルとか認知できないくらいそっくりです。

このことからも、ジーンはナルに合わせて成長していると考えられます。

 

死んでない説も「一番見えない横顔」で出ていましたが、ミステリー小説では、相好の判別がつかない遺体は100%別人ですよね。

ジーンの場合はさすがにDNA鑑定はしていますかね。。。(遺体の描写では髪の毛は残っていたようですし)

どうもジーンは麻衣というよりは、ナルが側にいると覚醒している気配です。

ナルがイギリスに帰国している間にも調査はあったけど、夢は見なかったと「悪夢の棲む家」で麻衣も発言していますし、ジーンが出現するには一定の条件が定められているような気もします。

悪夢の棲む家ではナルと鏡越しに繋がってPKのトスまで出来るようになっていたし、もはや念とかスタンドみたいな存在ですね笑

 

疑問③麻衣のことはどう思っていたのか?

麻衣がジーンを好きだったことははっきり描写されていますが、ジーンの麻衣に対する好意は実はあまり描かれていません。

夢の中で優しく微笑んでいたことは彼の元々の性格だし、指導霊として麻衣を導いたことも、ナルを手助けしたい意図だったように思います。

「鮮血の迷宮」では浦戸の霊に怯える真砂子の側に居てずっと励ましたというエピソードからも、弱っている人を見捨てない、誰にでも優しいジーンの人物像が浮かび上がります。

そもそも生前に麻衣との接点はゼロかつ、浮遊している間は覚醒している期間も限られているので、正直ジーンが麻衣に恋愛感情を抱くのは難しいかもしれませんね。。。

ただ「扉をあけて」では、自身がナルではないことを麻衣に告げようとする葛藤が伺えるシーンがあります。

①麻衣にナルは何の愛称か聞かれた際

「・・・Nollなら、オリヴァーの略だよ」

台詞冒頭の「・・・・」という間や、「困ったような白い顏」「なんだか少し悲しそうな声」という描写からも、彼が麻衣に本当の自分の名前を名乗れないことに対するもどかしさを感じられます。

②「麻衣に言っておきたいことがあって」と森の中に現れたとき

遺体発見直前に、ジーンの死体発見直前に森の中で麻衣の前に現れた彼が「もう会えないかもしれないから」「麻衣に言っておきたいことがあって」と切り出し、「・・・やっぱり、やめておく」と言ったことは、恋愛フィルターをかけると、本当は麻衣に正体を明かしたいが、これまでの自分をナルだと思ってナルに好意をいただいている麻衣を傷つけたくない、という配慮と捉えることもできそうです。

麻衣を傷つけたくない、という思いは好きな女の子に対する好意の一歩のような気もします。

 

悪夢の棲む家ではジーンもSPRチームの一員として参加しており、とてもいい展開だったので、その先の第二シーズン今からでも始まって欲しいです!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴーストハント「扉を開けて」旧版、コミック版、リライト版、文庫版比較

令和になってもゴーストハントの新刊が読める幸せを噛みしめながら読了した文庫版。

文庫版では7巻にあたる「扉を開けて」ですが、過去4回出版されています。

1992年9月5日 悪霊だってヘイキ!上巻

1992年10月5日 悪霊だってヘイキ!下巻

講談社X文庫レーベルでの「悪霊シリーズ時代」ですね。

80年代の挿絵に、平成キッズだった自分としては度肝を抜かれていました笑

 

そしてそこから16年後(!)コミックス版「ゴーストハント」にて世に出ます。

いなだ詩穂さんによるコミカライズ版で、シリーズタイトルは「忘れられた子どもたち」でした。

2008年4月11日 ゴーストハント10巻 

2009年8月6日 ゴーストハント11巻 

2010年9月30日 ゴーストハント12巻

わたしはゴーストハントとの出会いがコミカライズ版からだったこともあり、いなだ詩穂さんの描くゴーストハントが大好きすぎるのですが、これはまた別途語るとして、、、

 

最終回のこの話は、ドラマCD版でも割愛されていたり(何故かこれだけ飛ばして、海からくるもの→悪夢の棲む家の流れになっているんですよね)

コミックスの文庫版も出ているのですが、今回は割愛し、コミックス12巻発売から1年後、「悪霊シリーズ」のリライト版として、角川幽BOOKSレーベルで発行されます。

2011年11月15日 ゴーストハント7 扉を開けて

そして令和に入り文庫版刊行となりました。

2021年6月25日 ゴーストハント7 扉を開けて(文庫版)

初版発行から約30年かけて出版されているんですね。そりゃあ自分の人生の大半をゴーストハントが占めている訳ですな・・・!

00年代のコミックス版は基本的には「悪霊シリーズ」を忠実にコミカライズしていたのですが10年代のリライト版は、原作者の小野不由美さんによる加筆・修正が入っています。シリーズ全編、主要人物周りの部分というよりは、事件のディテールを補足するものが主だったのですが(大筋は変えられないもんね)、この7巻「扉を開けて」だけは大きな違いがありました!!!

 

※ここからはネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

最大の違いは、ナルの正体を暴くタイミングでした。

これまでは、前半が小学校の事件パート(「忘れられた子どもたち」)で、解決後の後半にナルの正体が明らかになるパートと明確に分かれていたものが、リライト版では小学校の事件パート真っ只中で、少しずつ謎が解けてゆく構成になっています。

これは結構大きな手術だったと思います。

メンバーが一人ずつ消えていき、存在を忘れてしまうのと、ナルの正体を推理していくのが平行しています。基本的な台詞は悪霊シリーズの頃のそのままで、ぼーさんと麻衣の会話で、麻衣がぼーさんに導かれる形で自ら答えを見つけ出してゆくスタイルでした。そして事件解決後、バンガローで麻衣が自身が辿り着いた結論を「そうなんでしょ?」とメンバーに披露し、そのままナル(とリンさん)にもぶつける形になっています。

個人の好みでいうと、私は旧版の推理小説の王道のような、関係者全員を集めてその前で推理を披露するスタイルの方が正直好きでした。

ぼーさんの推理、麻衣や綾子の疑問出し、ナルとの攻防など、ミステリー小説出身の小野不由美先生らしい、見事な形式で、すごく興奮したのを覚えています。

 

今回のこの改訂の真意は小野主上にしかわかりませんが、勝手に考察してみました。

 

①主人公の麻衣が自ら真相に辿り着く姿に意味がある

「悪霊シリーズ」はX文庫という少女小説レーベルだったこともあり、主人公の一人称で書かねばならない、主人公は普通の子でなければならない等制約がいろいろあったと小野さんもあとがきで書いていました。

そのため、麻衣は能力者たちに囲まれた「ミソっかすのあたし」としてシリーズを過ごしてきました。後半になるにつれ、ジーンの指導もあり、能力を発揮しつつありましたが、最後の事件でさえも、麻衣が一人浄霊して解決したことをメンバーたちは(冗談交じりで)認めようとしていなかったことからも、ずっと「霊能者としては半人前」の地位にいることが分かります。

続編の「悪夢の棲む家」の冒頭でも「調査員として半人前」と評されていますしね。

 

一方で、邪推ですが小野主上が描く女性主人公やヒロインは皆「自分の頭で考え、自分の意思で突き進んでゆく」姿を描いています。

十二国記の陽子が代表例ですが、鈴と祥慶、珠晶もそうです。「屍鬼」の沙子や「黒祠の島」の葛木志保も逆境で見せる賢さ・意志の強さを感じます。

今回のリライトにあたり、麻衣にもそうした要素を入れたいと思ったのではないでしょうか。

もちろんシリーズ全編で麻衣はしっかり自分の考えを持ち、事件に立ち向かっていっていましたが、旧版の「悪霊シリーズ」では、この最終回の後半パートにおいては、麻衣はナルの正体もぼーさんの推理で聞かされ、ジーンの存在もナルに指摘されて思い至るなど、全て受け身の主人公になっています。

第一話の旧校舎階段でのゴーストハントを手伝うきっかけからしても「巻き込まれ型主人公」だったのは明白ですが、今回のリライトで、ナルの正体に自分で気付いた主人公となったことが、小野主上が描きたかった女の子だったのかもしれません。

 

②ナルの本名を告げるのがジーンであることに意味がある

「ナル、って何の愛称?」

「・・・Nollなら、オリヴァーの略だよ」

ナルの正体に辿り着くトドメのヒント。旧版やコミック版ではジョンの台詞だったのが、今回のリライトでは麻衣が夢の中のナルに直接問い、彼が答える構図になっています。

この時点で麻衣は夢の中のナルの正体には気付いていないので、このやりとりにより、ジーンの切なさというか、複雑な思いが読み取れるようになっています。

台詞冒頭の「・・・・」という間や、「困ったような白い顏」「なんだか少し悲しそうな声」という描写からも、旧版やコミック版では描かれなかった、麻衣の前で正体を明かさず、ナルのフリをしているジーンの葛藤が垣間見えます。

 

この流れになると、ジーンの死体発見直前に森の中で麻衣の前に現れた彼が「麻衣に言っておきたいこと」「・・・やっぱり、やめておく」と言ったことは自分がナルではなく、ユージンですよ、という告白であるという要素が強まりますね。

※ユージンに関しては色々疑問があるので、これはまた別途考察します。

 

長々語ってしまいましたが、ゴーストハントはどの版も本当に面白いですし、

今回の文庫版が書店に平積みで並んでいるのを見るのは、ファンとしてとっても至福でした。